町を代表するプロの「楽農家」から学ぶ農業と人生観

学生ライターの小泉です。

第4弾の今回は、南三陸町を代表する農家の1人であり、「里の循環型ファーム」プロジェクトのパートナーである阿部勝善さんにお話を伺いました。

震災前から青年団に所属し、住まいのある入谷地域の中心人物だった勝善さん。自身を、楽しく農業をする「楽農家」だと語る彼は、震災後もその明るい性格で農業を通じた復興とまちづくりに尽力し続けています。そんな彼のもとで行うプロジェクトには、どのようなビジョンが描かれているのでしょうか。

 

【たくさんの繋がり、たくさんの笑顔】

震災後、ボランティアや研究を目的に掲げたたくさんの人が南三陸町を訪れた。積極的に受け入れをした勝善さんと彼らの関係は今もなお、強くつながっている。

 

「学生とか教授、企業との繋がりは結構あって。みんな震災後の繋がりで、はじめはボランティアとかで来てくれたけど、今はそういうのに関係なく「会いたい」って言って来てくれるんだよね。この町に来てみて、この町が好きになってくれたのかなって思う。俺の親父ギャグも気に入ってくれたのかもしれない(笑)」

 

はじめは被災地ボランティアとして南三陸に来た人々も、勝善さんの魅力に見せられ、今ではボランティアとそれを受け入れる地元民を超えた関係が形成されている。

 

「ボランティアっちゃボランティアだけど、「なんかやることある?」「あるある。じゃあ桃の木の作業手伝ってもらおうかな。」っていうちょこちょこっとしたやり取りをするだけで、みんなが手伝いをしに来てくれる。そんなことができるくらいの関係になっているんだよね。仲良しなの(笑)」

「震災直後にボランティアに来たある学生とずっと繋がりがあって、学部を卒業した今も2~3か月に1回のペースで遊びに来てくれている。今度の8月にはみんなでバーベキューを計画中なのさ。ここら辺の人たちがスポンサーになって、みんなお酒だのお刺身だの差し入れしてくれるんだよね(笑)みんな外から人が来るのをすごく楽しみにしてるわけ。」

 

ボランティアをきっかけに新しい人が地域に入って来る。勝善さんを中心に、町の魅力ある資源や人とつながっていく。勝善さんの周りはいつも笑顔で溢れている。

 

 

【私をハブにしてたくさんの繋がりを】

勝善さんが持っているたくさんの繋がりは、今回募集のプロジェクトでも大きな力を発揮する。

 

「来てくれる起業家さんの目的とかプロジェクトでやってみたいことを聞いて、それに最適な人と引き合わせるプロデュースをしたいと思っている。昔から青年団の活動を通じて地域のリーダーのようなことはやっているから、そういったことは苦にならないね。」

「外から人が入って来ることに関しては全く問題なし。俺を含め、みんな好意的に迎えてくれるね。この地域でエコツーリズムのガイドをすることがあるんだけど、友達の家に入ってお話してもらうこともしょっちゅうある。みんな喜んで話してくれるよ。80歳でパソコン使いこなすような人がいて、その人は若い人と話すのが大好きだから、いつも熱い想いをたくさん話してくれる。」

 

ここへ来る起業家は、勝善さんを起点にたくさんの農家さんと繋がり、農業を学んでいく。農業に詳しくなくとも、この地域の方々がみんなで先生となって教えてくれる。起業家の状況に応じて柔軟に対応できる土壌がここにはある。

 

【自然に優しい農業は生き物を呼び戻す】

無肥料・無農薬の農法にも取り組む勝善さんは、人の体に良い食べ物作りだけでなく、農業を通じた持続可能な生態系作りにまで考えを及ばせている。

 

「最近決定的な証拠が見つかったのさ。昔は田んぼを耕せばケラ虫がたくさん出てきて、それを子どもの餌にするムクドリもたくさんいたけど今は全然出てこない。そこで今年、10年くらい使っていなかった田んぼを借りて耕してみたら、ケラ虫がたくさん出て来たのよ。これは間違いなく農薬が原因で虫が出てこなくなったってことさ。」

「人間にとって住みやすい世界は、虫たちにとっては住みづらい世界なんだね。」

 

ヨーロッパでは使用が禁止されたネオニコチノイドという農薬が、日本では依然として使用されている。この農薬は、一般的な農薬が効果を示さなくなった虫を殺すためのもので、虫たちの神経を狂わせ生殖能力にまで影響を与える。勝善さんは、なるべく農薬を使わないよう心掛けている。

 

「農薬を使わないことは私たちの体にもいいけど、生態系にとっても良いことなんだよね。このまま農薬を使う農業を続けていれば生態系を壊してしまうし、私たち人間の体にだって農薬の悪い影響が蓄積されてしまう。かつての公害みたいに、いずれその影響が身体に出てしまうようなことも考えられる。」

 

 

【この町の農産物をブランド化させる】

震災後、新しい農法に取り組み続けてきた勝善さん。南三陸町を代表する農家の1人として、この町の農業にどのような展望を持っているのだろうか。

 

「農協の人とも話しているんだけど、南三陸町のブランド化を図りたい。そのためには他の地域と差別化が必要で、この町で言うと農産物の生育に液肥を使っていることが他との違いなんだよね。南三陸町は森・里・海いのちめぐるまちというビジョンを掲げていて、3つのフィールドがそれぞれ環境に配慮した循環型の産業をすることで循環型社会を形成しようとしているのさ。今のところ森ではFSC、海ではASCといって、環境に配慮した生産をしているよっていう国際認証を取っているんだけど、里はまだ伸び代があるなっていう感じ。」

「液肥は生ごみを分解させて肥料にしたもので、自然に優しいものなのね。それを使って育てた農産物がブランドものとしてもっともっと商店街に並ぶようにしたい。実現のためにデータも管理しながら栽培しているよ。今年でそれも3年目になるね。」

 

南三陸の農業がより自然に優しくなり、より発展を遂げるために勝善さんの挑戦は終わらない。

 

「色んな取り組みも、失敗したら絶対にリベンジしてやるという気持ちでやっているね。実は結構失敗してるんだよ(笑)けど失敗しても悩まない。しゃあねえなと思ってそれで終わり。だって失敗したってまた挑戦すればいいんだもの。うちのお母さんには文句言われたりするけどね(笑)好きに生きてるから楽しいよ。」

 

失敗してもへこたれない。農業へのそのモチベーションはどこからやって来るのだろう。復興やまちづくりへの想いがそうさせるのだろうか。

 

「それも確かにあるんだけど、純粋に楽しいのさ。野菜の生育状況を見てこんな変化が起きたとか、今回は失敗したから次はこうしてみようとか。そんなことを考えるのが好きなんだよね。だから楽しくやってるよ。ITセンサーを取り入れたりもして、最先端の農業だって俺らはやってるんだ。」

 

勝善さんが今注目しているのは特別栽培米。国が定めた米の農薬使用基準を満たすとこの名を語ることができる。町の農協を通じて農家さんに情報を提供し、特別栽培米の流通の仕組みを作っていきたいと語ってくれた。

 

【みんな、あなたを待っている】

外から新しい人が来ることに歓迎的で、農業の新しい取り組みを続けているこの町。ここに起業家入ることでどんなインパクトを起こすことが期待されているのだろう。

 

「新しい人が来ると地域の人の意識が変わるよね。ここは外の人があまり来ない地域だから来てくれたらみんな嬉しいんだ。この地域に来たら、「どっから来たの?何やってる人なの?」って向こうから話しかけてくれる。みんな楽しく話したいだけだから、そこから深く突っ込んで聞いてくるようなこともないしね。だから色んな人とコミュニケーションを取れる人だといいな。」

 

笑いが絶えない取材だった。ここに来れば、農業だけではなく、人生観が変わる。そう感じた時間だった。

 

取材の最後には、「夕方になったらさっさと仕事をやめて、ビールを流し込むのが最高なんだよね〜。お米や野菜を保冷するための大きな冷蔵庫に、実はビールもこっそり冷やしてるんだ(笑)」と語ってくれた勝善さん。地域の中心として、南三陸町の農業を代表する1人として活躍しているにもかかわらず、冗談交じりに笑顔で話してくれるそのフラットな姿勢。彼の周りに人が集まってくるのが頷けた。

 

 

<<本プロジェクトを担う人材を現在募集しています。詳細はこちらをご覧ください。>>

 

(文=小泉晴香。学生ライター。青森県出身。宇都宮大学国際学部に所属し国際社会学を専攻。昨年夏には復興庁が主催する復興・創生インターンで南三陸町に1か月間滞在。きれいな自然や人の優しさ、まちづくりに向け尽力する人たちと出会いこの町に魅了された者の1人。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です